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コラム

COLUMN

2022.05.31
法規・法律

建築基準法の変遷 ~災害の歴史とともに~


近代日本の住宅の歴史について、今回は建築基準法の変遷とともにお話していきます。

1.建築基準法の目的 ~建築基準法は最低の基準~

 

 日本の住宅の歴史②でお伝えした通り、建築基準法は太平洋戦争終結から5年後の1950年に制定されました。

 建築基準法が制定された目的は、その第一条に以下の通り明確に謳われています。

 

建築基準法 第一条

 「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。」

 

 建築基準法は国民の生命・健康・財産を守るために建築物の敷地・構造・設備・用途についての最低限の基準を定めたものということです。つまりは、国民を守るためということが目的とされています。

 ただし、ここに「最低の基準」と明記されていることからも、あくまでも最低基準でしかありません。この法律を守ってさえすれば建物が絶対に安全だと言えるものでもないということでもあります。逆に言えば、十分に生命・健康・財産を保護しようとするのであれば、これだけでは不十分である、という法律でもあります。このように最低基準としたのには、建築物は本来自由に建造できる権利があるものであるという考えが根底にあり、それを公の利益のために制限することは最低限に留めなければならないという考えに基づくものです。このような考え方から「最低の基準」のスタンスをとっている訳です。

 ここまでをまとめると、建築基準法とは国民の生命・健康・財産を守るための最低限のルールは設けるが、それ以上のプラスアルファは自由に造って構いません、という法律であると言えます。

 

2.市街地建築物法から建築基準法へ

 

 建築基準法は先述の通り1950年に制定されましたが、実はそれ以前まではその前身となる「市街地建築物法」というものがありました。制定されたのは1919年(大正8年)です。この制定から4年後の1923年(大正12年)9月1日に関東大震災が起こります。死者・行方不明者は10万人以上と言われる大災害となりました。恐らくこれは記録が残る地震災害の中では最大級の被害ではないでしょうか。その大災害を受けて翌年、市街地建築物法に耐震基準が盛り込まれ筋交いなどの規定がなされました。

 そして戦後、全国各地が戦火に見舞われたこともあり、市街地に限らず全国すべてにおいての基準を設ける必要性から、市街地建築物法に代わる建築基準法ができました。

時忘れじの塔

時忘れじの塔 関東大震災と東京大空襲の慰霊碑(東京都立上野恩賜公園にて

 

3.建築基準法の変遷は災害の歴史とともに

 

 建築基準法の変遷は、大きな災害の歴史とともにあります。市街地建築物法が関東大震災を受けて改正されたように、建築基準法も大地震が起こるたびに改正が繰り返されています。

 まず最も大きな改正となったのは、1981年(昭和56年)におこなわれた改正です。

これは1978年(昭和53年)に発生した宮城県沖地震を契機に改正され、その内容は基礎構造が鉄筋コンクリート造であることが規定されたほか、主に木造軸組み工法において必要となる壁量の規定が初期の2倍に強化されました。この1981年6月以降を一般に「新耐震基準」,それ以前を「旧耐震基準」と呼びます。耐震診断・耐震補強をおこなうかどうかや中古住宅を購入する際の目安として、1981年6月以降に建てられた「新耐震」かどうかを確認しておくことが良いでしょう。

 

震災被害

 

そして次に大きな改正がなされたのは、1995年(平成7年)の兵庫県南部地震によって引き起こされた阪神淡路大震災を契機とする2000年(平成12年)です。この改正では、地耐力に応じた基礎構造が規定されたことで建築時の地盤調査が事実上の義務となりました。また、阪神淡路大震災の被害を招いた柱の引き抜けや建物のねじれ現象の教訓から、柱などの接合部にかかる強さに応じた金物を設置することや、壁の配置バランスに関する規定が設けられました。そしてこれとほぼ同じタイミングで、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(以降『品確法』と表記する)という別の法律も施行され、こちらで「耐震等級」という概念が導入されました。こちらでは耐震等級1,2,3の三段階で評価され、等級1が建築基準法程度の耐震性,等級2が基準法の1.25倍,等級3が1.5倍以上と定められました。品確法における耐震等級は任意ではあるものの、建築基準法はあくまでも「最低の基準」であることから、より国民の命を守れる建築物の建築を促す狙いもあるかと思います。

 

 ちなみに、品確法の最も主要な内容は瑕疵担保責任が義務化されたことにあります。新築住宅において、「構造体力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」について住宅販売事業者に対して10年間責任を負うことを義務付けました。構造に関わることや雨漏りに繋がるようないい加減な工事は許さないとすることと、建てて引き渡したら「もう知らない」といった無責任な対応を許さないとするもので、消費者保護の観点からより健全な住宅を造ることのためにつくられた法律です。この品確法については、またいずれ詳しくお伝えできればと思います。

 なお、災害ではないものでも法改正に至る契機となったものがあります。それは2005年(平成17年)に発覚した耐震偽装事件です。建築士が構造計算書を偽造し、耐震基準を満たさない建築物が建設されたことで、当時大きな社会問題となりました。これにより建築士の社会的責任の重さが見直され、建築士法や建築基準法で罰則の強化や定期講習の義務化などの改正がなされました。

 

4.今後の建築基準法の改正の可能性

熊本城

震度7を2度観測した2016年(平成28年)の熊本地震において、前述の「新耐震」の住宅の倒壊も数多くあり、更には品確法における「耐震等級2」の住宅の倒壊も発生しました。(※参照  国土交通省 住宅局「熊本地震における建築物被害の原因 分析を行う委員会」報告書のポイント https://www.mlit.go.jp/common/001155087.pdf 

 もちろん「旧耐震」の建物に比べればその倒壊率は低いものの、新耐震基準や2000年以降の基準であれば倒壊しないと言えるものではないことは明らかとなりました。しかし、多少の被害は確認されたものの、現行の基準で建てられた建築物の多くは倒壊は免れており、その有効性を示すものと判断されています。よって、国土交通省の「熊本地震における建築物被害の原因分析を踏まえた主な取り組み方針(https://www.mlit.go.jp/common/001147917.pdf)」によると、現行の耐震基準の有効性は確認されたとして、これを更に強化するのではなくそれに満たない住宅を現行基準に適合させていくことを目指していくと謳われています。

 ところで、『「熊本地震における建築物被害の原因 分析を行う委員会」報告書のポイント』に、新耐震の建築物の倒壊被害要因として「蟻害」があることも見逃せません。いくら新耐震基準で耐震性の高い建築物になっていたとしても、シロアリ被害に遭ってしまっては本来の強さを発揮できなくなってしまいかねないということは、シロアリ対策の重要性を物語っています。

 

 以上から、熊本地震を受けての法改正は今のところは考えられていないようです。しかし、この地震の、2度の震度7,そして2度の震度6強に3度の震度6弱という7度もの大地震があったことは、大きな教訓としておくべきです。このように熊本地震が繰り返しの強い地震が発生し被害を拡大させたことから、現行の建築基準法では規定されていない「制震」構造に関する規定を設ける必要性についても声が上がっています。

 地震は繰り返しやってきます。住宅性能評価では建築基準法で想定する地震力を「極めて稀に(数百年に一度程度)発生する地震」と表現しています。「数百年に一度」と謳われていることからも、そもそも建築基準法では度重なる地震については想定されていません。地震は繰り返し発生するという現実に対して、法律はあくまでも一度だけ遭遇する地震に対して倒壊・崩壊しないことを想定しているのだと認識しておくことが重要でしょう。

建築基準法の変遷図

 

5.まとめ

 

 建築基準法が当然ながら建築物を建てたり改修したりする際のひとつの基準となります。これに則っていなければ違法な建築物となりますので当然と言えば当然です。しかし、あくまでもこれは「最低の基準」だということは忘れてはなりません。建築物を建てる際にはできる限りコストは抑えたいものです。コストとの兼ね合いも考慮すると、違法でないのであれば基準をクリアしている最低ラインで良しとなりがちでもあります。しかし、コストとの兼ね合いは考慮しつつも、最低の基準でだけで良いのかどうかはしっかりと検討する必要はあるでしょう。

「住まいは経年進化する」。時代とともに法改正が進んだとしても色褪せない住宅にしていきたいものですね。